横須賀地区 地産地消型ゼロエミッション植物工場基盤技術の開発
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研究内容のご紹介

地産地消型ゼロエミッション植物工場基盤技術の開発

食・エネルギーの地産地消と温室効果ガスの削減を目指して

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離島が抱える食料と電力系統の課題

南西諸島では、夏季になると暴風雨をもたらす台風が頻繁に襲来するため、露地栽培では塩害が発生し、ハウス栽培では被覆資材の破損が問題となります。夏季以外でも、時化が長く続くことがあり、島内の野菜生産や島外からの物流が不安定となり、生鮮野菜が不足して価格が高騰します。とりわけ離島では、電力の需要量と供給量が共に小さく、大規模系統と接続していないため、電力需要変動の影響を受けやすくなります。近年、脱炭素化に向けて離島にも風力発電や太陽光発電(以下、PV)等の再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が行われておりますが、導入量が増えると出力変動が大きくなるため、火力発電などによる調整が追いつかず、電力品質を保つことができなくなる恐れがあります。この電力系統の問題解決には、供給側だけでなく、需要家側においても系統柔軟性の確保が重要です。

 

植物工場の新たな役割

人工光植物工場は、堅牢な断熱壁に覆われた空間を栽培に利用するため、天候や気候の影響を受けにくく、無農薬で高品質な野菜の安定供給に適しています。一方、系統電力に電源を依存しており、生産コストに占める電気代の割合が高いことが課題でした。離島の現況を鑑みたところ、PV、蓄電池、ヒートポンプ給湯機、電気自動車(EV)、電動バイク、電動農機などの需要家側エネルギーリソースが島内各所に点在していることが分かりました。そこで、我々は新たな需要家側エネルギーリソースとして人工光植物工場を導入することにより(図1)、「野菜不足の解消」と「電力系統の柔軟性確保」という離島が抱える課題解決に貢献できるのではないかと考えました。すなわち、PVと蓄電池を併設した植物工場であれば、エネルギーを地産地消しながら系統電源に頼らずに野菜を安定生産が実現でき、収穫した野菜をEVで島内の消費地に配達することも可能になることから、離島における食とエネルギーの地産地消にも貢献できます。さらには、デマンドリスポンス(DR)を活用しながら、野菜の成長に悪影響を及ぼさない範囲で照明や空調などの電気使用量を調整可能になれば、植物工場が系統運用の安定化にも貢献できます。

 

図1.島嶼部地域マイクログリッドにおける地産地消型ゼロエミッション植物工場の役割

研究開発の概要

宮古島に再エネで稼働する植物工場実験施設を設置し(図2)、DR発動時に想定される様々な条件で植物工場内の環境変化や植物への影響についての基礎データを取得・評価し、植物工場側での対策技術(微弱光照射・溶存酸素濃度維持など)を開発しました。また、離島における電力系統の需給バランスの維持に貢献するため、野菜の成長への影響を最小化しながら植物工場内の空調・照明・水処理システム等の稼働、負荷を調整する植物工場用エネルギーマネジメントシステム(PEMS)を開発し、需給調整力をもった小規模植物工場の離島モデルを構築しました。さらに、電力系統の調整力リソースとしての植物工場のポテンシャルを評価しました。これらの先導的な技術的課題の解決に向けた取り組みのなかで、需要施設側(植物工場)の視点、系統側およびリソースアグリゲータ側視点から見た技術課題を抽出し、2030年の社会実装に向けた国家プロジェクト創生に資する研究提案しました(本研究成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP14004)の結果得られたものです)。

 
研究紹介リーフレットはこちらから(PDFダウンロード)
 

図2.植物工場実験施設の外観

図2.実験施設内のレタス栽培の様子

世界の食料情勢への貢献

本研究にて開発したゼロエミッション植物工場は、今後離島における再エネ導入が拡大した場合にも、調整力として機能することとなります。また、環境負荷の低減、系統運用と食のレジリエンス、エネルギーと食料の地産地消を同時に達成する先導的な事例となることが期待できます。エネルギーの完全地産地消と廃棄物排出ゼロを実現するゼロエミッション植物工場と十分な発電量を得られる環境(日射、風)があれば、地上の任意の場所で安定的に食料生産が可能となります。露地栽培に不適格な気候や水不足など食料生産が困難な地域、野菜の生産や輸送に多大なエネルギーを必要とする地域に対して、ゼロエミッション植物工場をパッケージとして提供することにより、我が国のみならず世界の食料情勢への貢献も期待できます。

 

研究内容を詳しく知りたい方は、こちらよりお問い合わせください。

 

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