横須賀地区 業務用電化厨房のための換気設計基準策定
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研究内容のご紹介

業務用電化厨房のための換気設計基準策定

約10年で1000ケース以上の実験を重ね換気量の削減で省エネに貢献

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電化厨房のメリットと食のIoT化

電化厨房のメリットは、「3C+P」と表現されます。具体的には、機器からの発熱が少ないため厨房内の温度が上昇しにくい(Cool)、燃焼排ガスがなく清掃性が高い(Clean)、温度や調理時間の設定や管理がしやすい(Controllable)、調理手順のマニュアル化がしやすく生産性の向上(Productivity)が図れることです。近年では、厨房施設内の機器の運転情報を一元的に集約して、保管や配信を可能とするIoTシステムの運営がなされている事例もあり、電化厨房の優位性は高まると期待されます。
業務用電化厨房の従来の換気設計は、国土交通省監修の「建築設備設計基準(通称:茶本)」に基づいています。電化厨房は調理に伴う燃焼がないため建築基準法上の火気使用室には該当せず、機器からの発熱も少ないので、換気量が低減できる可能性を以前から指摘されていました。業務用電化厨房の換気量は排気フードの有効開口面の風速(面風速)が0.3m/s以上が一般的ですが、これは燃焼厨房と同じ換気量で電化厨房の長所が生かされていませんでした。

業務用厨房は住宅居室の約100倍の換気量

業務用電化厨房の換気量は住宅居室に比べて約100倍と換気量が多く、換気した外気を厨房の設定温度にするためには、エネルギー消費が大きくなってしまいます。なので電化厨房の換気量の低減は、空調の省エネルギーにつながります。一方で換気量を下げ過ぎると結露が起きるなどして、衛生管理上の問題となるため、業務用電化厨房に相応しい換気量を明らかにすることが重要となります。

 

換気量低減による省エネルギー化

約10年、1000ケースの実験を重ねて

業務用電化厨房の省エネルギー化に向けた新たな設計指針の策定を目指し、日本エレクトロヒートセンター(JEHC)の電化厨房委員会に「業務用厨房における換気設計基準検討ワーキング」が設立されました。当所は、業務用電化厨房の必要換気量に関する実験を約10年で1000ケース以上実施し、そこで得られたデータを蓄積するなどの協力をしました。
業務用厨房は住宅の台所と違って、供食数が多く調理内容ごとに機器があるため、機器の種類が数多くあります。また、各機器の発熱の特徴や機器を覆う排気フードの形状なども多様です。

こうした多様な条件で必要換気量を明らかにするために、2009年に業務用電化厨房を対象とした換気性能試験設備を開発しました。この精度と再現性の高い設備で、機器や排気フードを様々に配置し、換気量をパラメータにして、機器から生じる熱や湯気の排気フードによる捕集量を多様な条件で明らかにしました。どの知見も国土交通省監修「建築設備設計基準」に定められている換気量より低減できることが示唆されました。

 

業務用電化厨房の換気性能試験設備外観

機器やフードが配置された内部

従来よりも2~3割少ない換気量での設計基準の改定

蓄積したデータに基づき、2017年2月に「業務用電化厨房施設の換気設備設計指針(JEHC103-2017)」(以下、JEHC指針)が制定されました。JEHC指針は、省エネルギー化の有効な手段となるような換気設計を提案し、労働・衛生環境維持の両立が可能な厨房の姿を示しています。JEHC指針の採用により一般的に換気量は従来の2~3割削減され、厨房の空調・換気に要する消費電力の削減率も同程度になると期待されます。
JEHC指針制定後、当所の我孫子地区にJEHC指針を計画時から採用した第1号物件である、200食規模の職員食堂厨房が2020年10月に完成しました。設計換気量は「建築設備設計基準」と比較して約5割減になったほか、排気ダクトの小型化や給排気ファンが小容量化したことでイニシャルコストの削減や天井内の収まりの改善につながり、省エネルギー志向のモデル厨房になることを目指しています。

JEHC指針第1号である我孫子地区の職員食堂用電化厨房

職員食堂

換気設計の選択肢が拡大

2021年8月に国土交通省監修、通称・茶本の最新版「建築設備設計基準 令和3年版」が発刊されました。電化厨房換気に関する記載は、原則、排気フード面風速(毎秒0.3m以上)から算出した換気量とすることには変更はないものの、ただし書きに「厨房の使用条件、厨房器具、フード形状などに応じた必要換気量が明らかな場合は、その値を用いて算定することを検討してもよい。」という文言が追加され、必要換気量の根拠が明確であれば換気設計の選択肢が広がる余地が生まれました。今後、電化厨房がさらに普及し、省エネルギーを通じて広く社会に貢献できることが期待できます。

 

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宮永 俊之

宮永 俊之

特別嘱託
博士(工学)

岩松 俊哉

岩松 俊哉

上席研究員
博士(環境情報学)

横須賀地区 業務用電化厨房のための換気設計基準策定