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サステナブルシステム(SS)研究本部

SS研究コラム
SS研究コラム

第1回

地球温暖化を考える (1) 温度上昇の計算尺

2016/03

地球温暖化の予測には、気候科学の粋を集めた複雑な数値モデルが使われる。しかし、今後見込まれる温度上昇を「ざっくり」把握する目的であれば、簡単なモデルでも十分である。簡単なモデルによる概算は、地球温暖化をエネルギー問題などの広い視点で捉え、国家百年の計に思いを馳せる、といった用途に向いている。モデルで分かることは、気候科学やエネルギー政策の専門家だけのものではない。この問題が人間社会の様々な局面に波及することから、他の分野の専門家や一般の方々とも共有することが、地球温暖化問題への適切な対応につながるのではないかと考えている。

大気・海洋環境
領域
副研究参事

筒井 純一

その概算法のポイントは次の3点である。以下の関連する知見は、気候変動に関する政府間パネルの第5次評価報告書に基づく。

 

  • (1) 化石燃料の燃焼や土地改変に伴って排出される二酸化炭素は、4割程度が大気中に長く残留する。
  • (2) 大気中の二酸化炭素が増えると、その濃度の対数にほぼ比例する加熱効果がはたらく。
  • (3) 世界平均気温は、加熱効果にほぼ比例して上昇する。

 

(1)と(2)の間では、質量で表す排出量を、気体の体積比で表す濃度に換算する必要がある。排出量にGtC(ギガ(109)トンカーボン)、濃度にppm(百万分の一の比率)の単位を使うと、1 ppmのCO2は地球全体では約2 GtCという覚え易い換算比率になる。GtCは二酸化炭素(CO2)の炭素部分(C)のみの質量を10億トン単位で計量したもので、CO2全体としてはその3.7倍になる。最近の世界全体の排出量は、年間で約10 GtCである。この場合、大気中の二酸化炭素は、毎年約4 GtCずつ増えていき、約2 ppmずつ濃度が上昇することになる。

 

(2)では対数の計算が出てくるが、表計算ソフトで’=5.35*LN(400/280)’などと入力すれば、現在の約400 ppmに対する加熱効果が得られる(約1.9 W/m2)。ここで使った式は、人間活動の変化が生じる前(産業革命以前)のCO2濃度280 ppmを基準とする加熱効果を表す近似式で、5.35はW/m2単位の比例定数である。

 

比例定数は温度計算の(3)にも出てくる。こちらは気候感度と呼ばれる指標に相当し、不確実性が大きいのであるが、概算目的では1 W/m2につき0.5℃が目安となる。この関係から、現在の約1.9 W/m2に対しては、1℃弱程度の温度上昇が見込まれる。実際には、二酸化炭素以外の温室効果ガスや、寒冷化をもたらす大気中の微粒子などの効果もある。さらに、火山噴火、太陽活動の変化、自然の内部変動も温度の変化をもたらす。ここでは深入りしないが、概算で求めた温度上昇は、過去百年余りの観測と概ね整合することが確認できる。

 

一連の概算は計算尺の形で示される(図)。二酸化炭素については、過去から現在および将来に至る累積的な排出量が温度上昇に関係することが実感できる。手順を逆に辿ると、目標とする温度上昇に対応する累積排出量が求まる。計算尺の目盛に不確実性があるが、結局のところ、温度目標が何℃であっても累積排出量には限りがあり、いつかは排出量をゼロにしなくてはならないことが分かる。

ただし、それがいつの時点なのかは大問題である。少なくとも、一国の長期目標(通常2050年時点の排出削減量)を超えたところに問題の本質がある。この判断の難しさは、気候やエネルギーの問題に加え、人間社会とそれを支える生態系における様々なリスクと不確実性を注意深く勘案して、社会経済の発展を世界的・長期的な視野で俯瞰することで、ようやく見えてくるレベルであろう。ここで述べたことは、より良い行動に向けたほんの第一歩に過ぎないが、広く共有することが大きな前進につながる。

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