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サステナブルシステム(SS)研究本部

SS研究コラム
SS研究コラム

第10回

風力発電におけるバードストライクを正しく評価する

2017/06

生物環境領域
上席研究員

竹内 亨

●風力発電開発の現状と環境影響

国内を車でドライブしていると、各地で風車を見ることが多くなりました。日本全体の風車は2143基、風力発電所としては441箇所にのぼり(2015年度末時点)、現在でも新たに100件以上の発電所の建設が計画されています。ただ、日本の全電力量に占める風力発電の割合は0.5%と小さく、風力先進地域のEUと比べるとまだまだ、と言っていいかもしれません。風力エネルギーの利用を促進してきたEUでは、2000年以降、平均約10%の割合で風力発電の導入量が増加を続けており、2015年度末時点で、風力発電が全電力量の約15.6%を賄うまでになっています。

風力発電は、燃料が不要で発電時に温室効果ガスを発生しないため、今後も温暖化問題への対応策のひとつとして導入拡大が期待されています。その一方で、発電出力の変動が大きく、適地が風況の良い立地に限定されることが導入を拡大するうえでの課題となっています。さらに、風力発電に固有ともいえる環境問題も発生しています。それらは、風車の回転によって生じる騒音・振動、風車の回転する影(シャドーフリッカー)、風車が出現することによる景色の変化(景観上の問題)、鳥類・コウモリ類・海生動物(洋上風力の場合)への影響等です。これらは、風力発電を導入した多くの国々で共通の課題となっています。

●バードストライク評価の現状と課題

私たち電力中央研究所では、現在、鳥類への影響とその評価に関わる研究に取り組んでいます。風車の鳥類への影響といえば、バードストライクが良く知られています。しかし、一体どれくらいの鳥が風車に衝突しているのでしょうか?この問いに対しては、多くの国々で行われてきた衝突死骸の調査結果が参考になります。鳥類の衝突が全く見られない発電所もあれば、風車1基・1年当たり30個体を超えるところもあり、発電所や鳥の種類によって衝突数に大きな違いがあることが分かってきました。このため、衝突数の多い原因を明らかにする必要があるのですが、実は大きなハードルがあります。それは、鳥がなぜ、どのように衝突するのか、衝突の多い種類の特徴は何か等に関する情報がとても少ないのです。衝突の原因を明らかにするためには、衝突の際の飛翔行動と衝突要因について観察データを集める必要があります。自由に空を飛べる鳥の場合、衝突を避ける行動がどれくらい機能するかも重要です。しかし、鳥が風車に衝突する頻度は極めて稀なことから、これまでの目視による観察調査では多くのデータを集めることは困難でした。また、上空を飛翔する鳥の位置や高さを目視では測れない、という根本的な課題もありました。

このような状況に対し、レーダーを用いた鳥の飛翔観測が取り組まれています。もともとレーダーによる鳥観測は、渡り鳥のルートを明らかにするために開発され、目視で確認しにくい場所(海上や高高度)や夜間の飛翔軌跡を捉えるのに有効です。最近では、特にEUで急増する洋上風力発電所の鳥への影響を把握するために適用され、海鳥の風車近傍の飛翔行動が明らかにされています(図1)。ただ、レーダーでは、鳥の種類を判別したり、詳細な飛翔行動(風車近くで上昇・下降して回避する等)を把握することはできません。

図1 レーダーによって明らかになった海鳥の風車回避行動
線は鳥の飛翔軌跡を示す。図の右側から左側へ飛翔。ドットは洋上風力発電所の風車の位置を示す。 引用:Masden EA, Reeve R, Desholm M, Fox AD, Furness RW, Haydon DT (2012) Assessing the impact of marine wind farms on birds through movement modelling. Journal of the Royal Society Interface, 9:2120-2130

●当所の取り組み

当所では、2台のカメラを用いて風車近傍の飛翔を直接観測し、その軌跡を3次元座標化するシステムを開発しました(図2)。本システムのハードウェアは、撮影部分に家庭用ビデオカメラを利用し、小型の太陽光パネルで電源を賄うなど、目視観測調査に活用できる簡易な仕様となっています。

図2 当所開発の鳥類飛翔調査用3次元カメラシステムの原理
安価な2台の市販カメラで同時撮影した鳥類の飛翔映像から、飛翔軌跡を3次元空間に再構成できる。

本システムのソフトウェアは、撮影した鳥の飛翔の位置を3次元座標、すなわち緯度、経度、高度のデータとして出力することができるため、風車に対する鳥の動きを細かく分析することが可能です(図3)。現在、このシステムを用いて、風車への衝突や風車を回避する行動を明らかにする研究を行っています。

図3 当所の3次元カメラシステムにより捕らえた鳥の飛翔軌跡
青、黄、黄緑、ピンクの点は異なる飛翔軌跡(イベント)を示す。

新しい観測技術から得られるこうしたデータや知見は、風力発電所の建設前に行う環境影響評価(環境アセスメント)をより科学的にすることが期待できます。風力発電の環境アセスメントでは、風車に衝突する鳥の数や、風車を回避することによって衝突しない割合はどれくらいか、等を建設前に推定することで、鳥への影響を予測評価する必要があります。これまでは、鳥の風車への衝突や回避行動に関する観測データが少なく、多くの仮定にもとづいた影響予測や議論をせざるを得ませんでした。新しい観測技術の開発等を進めることによって、衝突や回避行動のメカニズムや原因を明らかにし、風車の影響をより科学的に評価することが重要です。

今後は、陸上に加え、洋上風力の急速な進展も期待されています。風況の良い地域では、多数の風力発電所が建設され、風車が林立することになるでしょう。鳥が風車に衝突するリスクが一層高まることから、衝突しやすい場所には風車の建設を避ける配慮が望まれますが、このためには衝突しやすい場所を事前に明らかにできる技術が必要です。また、風車の高さや形状等を工夫することにより、鳥が衝突しにくい構造物にしていくことも大事です。鳥類保全と風力発電との両立を図るため、こうした技術的な課題に取り組んで行きたいと考えています。

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