● 送電線と周辺樹木の離隔距離評価の必要性
電気事業は、87,832kmに亘る架空送電線を保有している(2015年度10社合計、電事連統計情報)。各社は送電設備の健全性を維持する保守・管理業務の一環として、送電線に接近する周辺樹木の管理・伐採を行っている。北米および欧州では、2013年に、送電線と樹木との接触に端を発する大停電が発生し、送電線と樹木の距離(離隔)を適正に保つことの重要性が改めて認識された。我が国では電気事業法に基づいて、送電線と樹木等の離隔維持(最低2mの確保)が管理基準として定められており、電力会社は定期的に離隔を確認するとともに、樹木の成長に応じて伐採や剪定等の管理を行う必要がある。そのための費用は電気事業全体で年間200〜300億円に達すると推定されている。
● 離隔評価の現状と課題
現在、送電線と樹木との離隔状況の確認には、主に航空機によるレーザー測量が用いられている。これは、ヘリコプターに搭載したレーザースキャナを用いて樹木や送電線を3次元の位置情報を持つ点の集まり(点群)として10cm精度で計測するもので、送電線の離隔を高精度かつ広範囲に把握することができる。しかしながら、樹種や密集度によって頻繁な離隔確認を必要とする地点も多く、航空機レーザー測量では費用上の問題があるとともに、計測結果の解析に1週間程度を要することも問題である。
多くの地点では作業員による目測が主体となるが、山間部では地上からの見通しが悪いために鉄塔に登って確認する必要があり、また、目測では計測結果に1m程度の誤差が生じる傾向にあるため、省力化と精度向上が課題となっている。このため、機動性に優れ、かつ、鉄塔に登らずに低コストで離隔を確認できる手法が求められている。
● ドローン活用技術の動向
近年、無人航空機(以降ドローン)の活用が進んでいる。ドローンは、自律飛行や遠隔操作が可能であることが特徴で、プロペラで飛行する回転翼式と、滑空する固定翼機がある。特に、マルチ回転翼型ドローンは垂直離着陸やホバリングできることから機動性が高く、高性能化と小型化が進んでいる。現在では、4K画像を撮影する高性能なカメラを備えた1.3kg程度の小型のマルチ回転翼型ドローンが20万円以下で購入できる。
ドローンを用いた測量技術には、レーザー測量と写真測量がある。レーザー測量装置を搭載したドローンは、現状では装置が大型で高額なため、航空機レーザー測量に対して明確なコストメリットは見出せていないようである。一方、写真測量はデジカメによる空撮画像を用いるため低コストで実施できる。カメラの解像度や撮影距離に依存するが、高画質デジタルカメラを用いれば数cm程度の精度で点群を再現可能である。さらに、高精度な全球測位衛星システム(GNSS)と組み合わせれば、絶対座標系に対応した高精度測量が可能となるため、国交省が2016年から進めるi-Constructionにおいても活用が期待されている。写真測量はこれまで火山活動や災害時などの地形変化の評価および土工管理に適用されてきたが、架空電線や鉄塔など高層構造物を含む場合の測量精度が検討された例はなかった。
● 当所の取り組みと展望
当所は、デジタルカメラを搭載したドローンによる写真測量が有効と考え、地形の複雑な日本で柔軟に運用できるマルチ回転翼型ドローン(クアッドコプタ)の活用に取り組んでいる。ここで用いる写真測量は、SfM/MVS(Structure from Motion / Multi-view Stereo、以降SfM処理)と呼ばれる手法で、視点の異なる複数の画像から撮影位置を推定し、対象までの距離計算を大量に実施することでレーザー測量と同精度の3次元点群を生成することができる。
上記の技術を用い、電力会社が保有する訓練用送電線において離隔計測を行った結果、画像間の重複率など一定の条件を満たせば樹木や空中にある送電線を点群として再現でき(図1)、離隔距離を航空機レーザー測量と同等の精度で評価できることを確認した。さらに、現地においてタブレット端末等に2次元の離隔マップ(図2)を表示し、そこに管理者の位置情報も表示するデータ処理手法と一連の離隔評価手法を構築した。
今回用いたドローンは、搭載GPSによるプログラミング飛行が可能であり、操縦技能を容易に習得できることもメリットの一つである。市販の小型ドローンとSfM処理を行うソフトウェアを組み合わせた測量を、電力会社の担当者が自ら実施することで、低コストで、迅速かつ一定の精度の離隔評価が可能と考えている。
図1 ドローン撮影画像から構築した送電設備の3次元点群
国交省は、人口が少ない地域での目視外飛行(監視員を置かない飛行)を2018年度にも本格化させる計画を発表しており、山間部の送電線もその対象となる。ドローンの短い航続時間(20~30分程度)や多様な気象条件への対応等の課題を解決し、リアルタイムで離隔評価を行うなど、情報処理技術の改善を進めることにより、将来的には離隔評価の一部を無人化(遠隔実施)することを展望している。
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