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サステナブルシステム(SS)研究本部

SS研究コラム
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第20回

CCSを考える (5) CO2の有効利用は排出削減に繋がるか? その2 原材料としてのCO2の利用

2018/10

前回のコラムでは、CO2の有効利用によってどの程度の削減が可能かを、現状で最もCO2の利用量が多いとされる石油増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery)を例に紹介しました 1)。今回は、その他のCO2有効利用について温暖化対策としてのポテンシャルを見てみます。

図1に主なCO2有効利用のプロセスと最終生産物を示しました。CO2の利用は、大きく、直接利用するものと、化学反応等による変換を伴うもの、に分類されます。変換を伴うプロセスでは、最終的に化学製品として工業原料や燃料が生産されます。また、余剰の再生可能エネルギーを変換プロセスで利用することにより、エネルギーが貯蔵されたと解釈することもできます。

大気・海洋環境
領域領域リーダー
上席研究員

下田 昭郎

図1 主なCO2有効利用プロセスと最終生産物

CO2有効利用が温暖化対策として地球規模でのCO2削減に貢献するためには、最終生産物に対する相応の需要が必要になります。 現在、化学肥料、メタノール、炭酸塩、等々の生産プラントにおける原材料としてのCO2の消費は世界全体で年間約1.2億トン程度と評価されています 2)。 これに対し、石油増進回収で利用されるCO2は6,000万トン程度です 1)。 生産プラントの中では尿素製造プロセスでの需要が最も多く1,000万トン程度、炭酸飲料水では数百万トン程度と見積もられています。 一方、メタノール等への燃料変換におけるCO2需要は現状ではほとんどありせんが、将来的には3億トン程度になるとの予測があります 3)。 ちなみに、世界全体の年間のCO2排出量は約300億トン、日本については約13億トンであり、メタノール等の燃料需要が予測どおりになった場合でもCO2の消費は排出量のごく一部に過ぎません。

(1) CO2有効利用における環境性の評価方法

CO2利用プロセスにおけるCO2の消費量はそのまま削減量にはなりません。図2は、CO2有効利用において、CO2排出の環境性を評価する際の境界の考え方を示しています。CO2有効利用では、発電所等の発生源で回収されたCO2が、製造プラントまで輸送され、様々な変換工程を経て製品となり、利用先までの輸送を経て消費されます。CO2の回収が行われる発生源での生産プロセスには、採掘・製造・輸送等のエネルギー消費を経た原材料や燃料が投入されます。CO2を利用した製品はその輸送プロセスにおいても電気・燃料等のエネルギーが投入されます。上記のプロセスで発生するCO2を、同じ製品を対象とした従来型の製造工程と比較することで、全体としてどの程度CO2排出を低減できるか、即ち、CO2有効利用における環境性を評価することが可能となります。加えて、消費の段階でのCO2排出も考慮する必要もあります。プラスティック代替や建材などに利用される場合は、ある程度の長期間にわたりCO2が固定されることが予想される一方、燃料の場合には、燃焼により再度CO2が大気中に放出されることになります。また、標準プロセスを設定する場合には、最終製品としての生産物が同じである場合と異なる場合があります。

図2 CO2排出に係る環境性を評価する際の境界

(2) CO2利用メタノール製造プロセスにおける削減効果(工業原料利用の場合)

メタノール製造についてのCO2削減ポテンシャル評価の具体例2) を紹介します。メタノール(CH3OH)は接着剤等の合成原料や石油代替自動車燃料として、広範な用途で利用されています。 図3上は、原材料の調達から製品の消費に至るまでのCO2を利用したメタノール製造プロセス(原材料の調達から製品製造)を、下は従来型のメタノール製造プロセスを示しています。 ここでのCO2は、水素製造プラントからのCO2回収を想定しました。 その結果、水素製造とメタノール製造からの直接的なCO2排出は564kg/tメタノールと評価されています。 一方、標準プロセスでは253kg/tメタノールとなります。 天然ガスや電力の供給に伴う間接的なCO2排出は、それぞれ303 kg/tメタノール316kg/tメタノールとなっています。 CO2の消費は、当然ながらCO2利用のプロセスのみで、330kg/ tメタノールと見積もられています。 結果的に、最終的な排出は、CO2利用のメタノールプロセスでは537kg/tメタノール、標準プロセスで570kg/tメタノールとなり、 1割弱のCO2排出削減が達成されると評価されています。

図3 CO2を利用したメタノール製造プロセス(工業原料利用)と標準プロセス

(3) CO2利用メタノール製造プロセスにおける削減効果(燃料利用の場合)

メタノールの燃料利用を想定した場合、これに対応する標準プロセスとしては、メタノール代替としてガソリンを製造するプロセスを設定します(図4)。 最終的な燃料消費によるCO2排出も考慮すると、CO2利用メタノール製造プロセスでのCO2排出量は、92.5kg/GJとなります(標準プロセスと最終製品が異なるため、熱量当たりの排出量で標記)。一方、米国海底油田原油からガソリンを製造する標準プロセスでは、95.2kg/GJのCO2排出と評価されています。原料調達からメタノール製造までのCO2排出は、回収CO2を利用しているにもかかわらずガソリン製造(標準プロセス)より多いですが、メタノールの燃料燃焼の排出原単位がガソリンに比べて小さいために、トータルではCO2利用メタノール製造プロセスのCO2排出が小さい評価となっています。

図4 CO2を利用したメタノール製造プロセスと標準プロセス(燃料利用)

(4) 今後の課題

ここで示した事例は、あくまでもある特定の条件下における評価であり、すべての変換プロセスにおいて必ずしも同程度の評価になるとは言えません。 ただし、発電所等からのCO2発生量と有効利用に活用されるCO2量には大きなギャップがあり、有効利用で削減可能なCO2量もかなり小さいことが窺えます。

今後、CO2有効利用が温暖化対策として貢献するためには、技術的には効率的なCO2変換プロセスの開発、政策的にはCO2変換プロセスによる製品が代替品として優先的に利用されるような施策(例えば、ガソリン代替としてCO2メタノールの利用)等によりCO2の需要を増やすことが必要です。

さらに、経済性についても、CO2有効利用プロセスが既存プロセスに対して十分な競争力を有する必要があります。 その場合、原材料としてのCO2が低コストで供給されることも必要です。現在、CO2は自然起源、天然ガス精製、尿素プラント等から供給されていますが、大規模発生源である石炭火力発電所や製鉄プラントからの供給コストは前者の3倍から5倍と見積もられています。その意味では、CCSのみならずCO2有効利用の観点からも火力発電プラントから効率的にCO2を回収する技術の研究開発が必要だと言えます。

引用文献

©2018 電力中央研究所