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サステナブルシステム(SS)研究本部

SS研究コラム
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第28回

再生可能エネルギー発電と気象予測 (2) 気象予測が外れる要因とその対応策

2020/06

前回のコラムでは、電力の需給運用において、数値気象モデルを用いた気象予測の重要性を紹介しました。しかし実際には、天候によって予測の“外れ”が生じる場合があります。予測の外れが生じると、電力の需給に大きな影響を与える可能性があります。例えば冬の時期、前日に発表された予測で、当日の天気は晴れて気温の上昇が見込めるとした場合、日中は暖房利用の減少による電力需要の低下と、太陽光発電による供給の増加が予想されるため、火力発電所で運用する発電機の数を減らす判断に至ります。ところが、予測が外れて当日の天気は曇りのため気温も低い状況となれば、太陽光発電による電力供給は期待できない上に、暖房利用による電力需要の増加が重なり、需要に対する供給量は不足してしまいます。したがって、電力の安定供給のためには、気象予測が外れることを見越して対処する必要があります。

大気・海洋環境領域
上席研究員

野原 大輔

気象予測が外れる主な要因として、「数値気象モデルの不完全性」と、「数値気象予測結果はカオス的に振る舞うこと」の2つが挙げられます。
数値気象モデルの不完全性は、計算機資源の制約により、現実大気の変化を厳密に表現できないことに起因するものです。例えば、日射量に影響を及ぼす雲を数値気象モデルで予測する場合、現在の数値気象モデルの空間解像度である2~5 km間隔の計算では非常に粗く、積雲(わた雲)などの比較的規模の小さい雲の再現性に限界があります。また、現在の数値気象モデルでは鉛直方向の層数も100層程度であり、巻雲(すじ雲)などの層状の雲の再現性が悪くなる場合があります。その他にもモデルの不完全性は、雲の生成・消滅や大気中を通過する日射量の減衰・散乱など、大気の状態を表現する様々な物理過程にも見られます。
予測が外れるもう一つの主要因であるカオス的な振る舞いとは、初期値のわずかな違いが、時間の経過とともに指数関数的に成長してしまう現象のことです。このようなカオス的な振る舞いは、台風や低気圧の経路・強度の予測の際によく現れます。
このように、気象予測は外れることがありますが、工夫によって予測精度を向上させることが可能です。数値気象モデル不完全性が原因の場合、モデルの”癖”を統計的な手法を用いて補正することで、ある程度予測を向上させることができます。具体的には、過去の数値気象予測の結果とその予測期間に対応する観測データから両者の統計関係を導き、最新の予測結果に適用することで予測値を補正します。統計関係の作成法としては、回帰、ニューラルネットワーク、カルマンフィルターなど、予測変数の特徴に合わせて、様々な手法が用いられています[1]。

一方、カオス的な振る舞いが原因の場合は、たとえ数値気象予測技術がさらに向上したとしても初期値に誤差が含まれる限り、予測が外れることは避けられません。しかしながら、この認識を逆に応用した技術である「アンサンブル予測手法」が開発されてから、気象予測をうまく活用できるようになりました。アンサンブル予測とは、初期値に摂動(人工的な誤差)を加えた複数の予測のことです。この複数の予測結果にどのくらい違いが生じるかによって、カオス的な振る舞いに起因して予測が外れる程度を知ることができます。アンサンブル予測は1990年頃から実用化され、週間予報や季節予報に利用されています。気象庁では2019年6月から、翌日までを対象とした高解像度のアンサンブル予報情報の提供を開始しました[2]。我々も数日先までの太陽光・風力発電出力予測の信頼性評価を目的に、アンサンブル予測手法を開発しています[3]。
アンサンブル予測の事例を、2013年1月13日から翌1月14日にかけての日本周辺の気象変化を例に紹介します。1月14日は、事前の天気予報では関東地方で雨が予想されていましたが、実際には大雪となった日です。図1は、当時の気圧配置にアンサンブル予測を適用したものです。左側の2つの図は、ともに初期値となる1月13日21時の気圧配置を表しています。2つの天気図とも沖縄付近に低気圧が確認できますが、カオス的振る舞いを考慮した摂動が加えられているため、気圧配置にわずかな差がみられます。右側の図は24時間後の1月14日21時の気圧配置の予測結果です。右上図では低気圧は非常に発達しながら関東の東の海上に抜け、関東地方の気温の低下も予測していますが、右下図では低気圧はそれほど発達せず、経路も本州から南側に離れており、気温の低下も見られません。この結果から、初期値のわずかな差によって、24時間先の予測された天気図が大きく異なったことがわかります。つまり、14日は、低気圧の強度や経路を当てにくく、予測が難しい気象条件であったわけです。

図1. アンサンブル予測の例:関東地方が大雪になるケース(上)と雨になるケース(下)。初期値のわずかな違いでも、低気圧の強度や進路は大きく異なる。(野原ほか(2015)[3]を元に作成)

もう一つ、太陽光発電の出力を推定する目的で、アンサンブル予測を用いて翌日の日射量予測を行った事例を図2に示します。4月23日の事例では、11メンバー、すなわち11とおりの計算結果から構成されるアンサンブル予測がほぼ同じ値を示しており、日射量予測の信頼性は高いと評価できます。つまり、予報は当たりやすく日中の太陽光発電の出力推定も誤差は小さいと推測できます。実際の観測結果も釣り鐘状の日射量変化を示しており、日射量の予測結果はほぼ的中しています。このようなケースでは、あらかじめ予測した電力需給計画どおりの運用が可能となると解釈できます。一方、5月5日の事例では、アンサンブル予測の結果がメンバー毎に大きく異なっています。この場合、日射量予測の信頼性は低く、太陽光発電の出力が得られるのか否かを事前に推定することはできません。実際にこの日の観測では、日中雲に覆われたため一時的な日射量の低下が見られました。このように、予測の信頼性が低い日の予報は外れやすいため、太陽光発電の出力状況に応じて、電力需給運用を柔軟に行う必要があると解釈できます。

図2. 翌日を対象とした日射量予測。高解像度版予測(水平解像度4km)を基本とし、アンサンブル予測(水平解像度15km、11メンバーで構成)で予測の信頼性を補足している。

以上、予測が外れる要因である数値気象モデルの不完全性やカオス的な振る舞いに対応する、統計的補正法やアンサンブル予測手法について紹介しました。電力の安定供給のためには、これらの手法を組み合わせて活用していくことが必要です。

今後、地球温暖化の緩和策の一つとして、太陽光・風力発電の導入が増え続けることが予想されます。これらの電源を効果的に活用するために、蓄電池やヒートポンプ等の運用により電力使用を最適化するための調整が活発になると考えられます。そしてこれらの運用においても天候を考慮することが大事になってきます。例えば、ヒートポンプの有効な活用法として考えられるのは、日中に太陽光発電の高出力が期待できる晴れの天気のときは、昼間にお湯を沸かすことです(日中の暖かい気温の中で湯を沸かすことができるので、省エネにもなります)。逆に、曇りの日は、一般的な運用方法である、深夜電力を使ってお湯を沸かすのがよいでしょう。このように、電力を効率よく使っていくためにも、気象予測は大切な情報になると思われます。

参考文献

  • [1] 気象庁予報部.2018. ガイダンスの解説.数値予報課報告・別冊第64号.248pp.
  • [2] 気象庁予報部.2019.メソアンサンブル数値予報モデルGPVの提供開始について.配信資料に関する技術情報第505号.
  • [3] 野原大輔、他.2015.確率気象予測のための領域アンサンブル予測手法の開発.電力中央研究所報告.V14013.

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