第30回
2020/08
“カラスの被害”と聞くと、農作物被害やゴミ荒らし、駅などでのフン害などが思い浮かぶかと思いますが、電気事業でもカラス被害(鳥害)が発生しています(図1)。餌資源の豊富な都市や郊外で生息することはカラスにとってもメリットが多く、配電柱や鉄塔、電線といった電力設備が彼らの止まり木や営巣場所として利用されることが被害の発生に繋がります。
日本で繁殖するカラスにはハシブトガラスとハシボソガラスの2種がいますが、配電柱に営巣するカラスはほとんどがハシボソガラスです*3。一方、送電鉄塔には、ハシブトガラスによる相当数の営巣が見られます*4。これは、ハシボソガラスのほうが低い場所でも営巣できるという特徴が関係していると考えられます。北海道の自然環境における調査結果ではありますが、これらの2種の巣の高さの下限は、ハシボソガラスで7m、ハシブトガラスで14mであることが報告されています*5。このようにカラスの種による営巣場所の違いは、設備の利用されやすさと関係するため、被害を防止する上でも重要な情報になります。
また、カラスは夜間ねぐらに集合して過ごしますが、ねぐらに入る前にその近くで一度集合する習性(就塒直前集合)を持っています。集合場所としてはビルの屋上などが選ばれることが知られていますが、送電線や配電線も頻繁に利用されます(図3)。多い時には1本の送電線(架空地線)に300羽を超えるカラスが飛来し、その直下の住宅や駐車場でフン害が発生することもあります。さらに、一部の変電所などでは設備全体がカラスのねぐらそのものになることもあり、そのようなケースでは、カラスのフンによる設備の汚損や、積み重なったフンによる停電故障の発生など、種々の障害発生リスクの増大が危惧されます。
このような鳥害を未然に防ぐために、電力流通設備では定期的な巡視や巣材の撤去が行われており、年間で撤去される巣材は20万個を超えています*6, *7。場所や設備にもよりますが、巣材を1個撤去するにあたって3名程で約2時間の作業が必要となります。単純に計算しただけでも、設備から巣材を撤去するために要する時間は年間120万時間にも及びます。これに加えて、多くの電力会社では、カラスの営巣期に毎週巡視を実施するなど、鳥害対策には多くの時間と労力を要しています。日本の停電時間や停電回数は諸外国と比較して低いことが知られていますが*8、このような地道な鳥害対策活動も停電防止に寄与していると考えています。将来的な労働力人口の減少が叫ばれる中、安定した電力供給を実現するために、鳥害対策の“質”は維持しつつ、巡視や巣材撤去の時間と労力をどう低減していくのかを考えることが、今まさに必要とされています。
電力流通設備に関わる鳥害対策には現状で多くの時間と労力が割かれており、今後対策・監視技術などで自動化できる部分と、人が担うべき部分とを明らかにしていく必要があります。鳥害対策の省力化で期待されるのが、カラスを定期的に追い払ってくれるカラス対策品です。現在、カラス対策品は多数市販されているものの、その効果や有効期間が必ずしも明らかでないという課題があります。当所では、適切な評価に基づき効果の高い対策品を抽出し、現場に導入することを目指して研究を進めています。こちらについては次回詳しく紹介いたします。
引用文献
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