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サステナブルシステム(SS)研究本部

SS研究コラム
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第19回

地球温暖化を考える (6) 気象の極端化の仕組みと気候レジリエンスの向上

2018/09

大気・海洋環境領域
副研究参事

筒井 純一

(1) 平成30年7月豪雨

平成最後の夏は、西日本に未曾有の大雨をもたらした「平成30年7月豪雨」が記憶されることになった。他にも、関東甲信の6月の梅雨明け、災害級の猛暑、逆走(西進)した台風第12号など、記憶にも記録にも残る夏であった。秋になっても顕著な事象が収まらず、台風第21号の記録的高潮と暴風が関西国際空港などに深刻な被害をもたらした。

しばしば起こる「異常気象」と地球温暖化との関連について、専門家の公式見解は概して保守的で、両者の関係は明確ではないとされることが多い。ただ最近では、観測と気候シミュレーションの両面から研究が進み、専門家も踏み込んだ見解を表明するようになってきた。先の豪雨については、気象庁は臨時に開催した異常気象分析検討会の後、報道発表で「地球温暖化に伴う水蒸気量の増加の寄与もあったと考えられる」と言及した [1]

(2) 地球温暖化によって降雨が変化する仕組み

雨は上空の水蒸気が凝結して地上に落ちてくるものであり、大気中に含まれる水蒸気量は気温が高いほど増加する。したがって、温暖化で平均的な気温が高くなれば、雨の元になる水蒸気量が増えて大雨になりやすい。気象庁の報道発表の資料には、「気温が1℃上昇すると、水蒸気量が7%程度増加することが知られている」と記載されている。

しかし、温暖化による雨の変化はそう単純ではない。実際のところ、世界的には大雨とともに渇水も懸念されている。

この問題を考えるには次の二つの事実関係を整理する必要がある。一つは、もともと雨の降り方が地域によって大きく異なり、同じ地域でも季節や年によって大きく変化することである。もう一つは、温暖化で雨の元になる蒸発量も増えるが、その度合いは水蒸気量の変化と比べて小さいことである。1℃当たりの増加率で比較すると、水蒸気量は7%程度であるのに対し、蒸発量は世界平均で1–3%程度に留まる[2]。いずれも物理法則で規定されるもので、後者の場合は地表や大気での熱の出入りのバランスから決まる。

ここで、個々の地域・季節における降水量(precipitation, P)と蒸発量(evaporation、E)の差をP-Eと表すことにする。P-Eの値はプラスであったりマイナスであったりして、その大きさ(絶対値)も大きく異なるが、年間を通した地球全体の合計はゼロである。したがって、P-Eがプラスのところでは水蒸気が周囲から集まり、マイナスのところは水蒸気が周囲に出ていく(図1)。温暖化で大気中の水蒸気量が増えると、基本的に水蒸気の輸送量も増えるため、P-Eの絶対値は増加する。つまり、温暖化すると雨が多いところはますます多くなり、乾燥しやすいところはますます乾燥する。

図1 降水量、蒸発量、水蒸気輸送量の関係と温暖化による変化の典型例
上段は降水量が蒸発量を上回る地域・季節(P-E>0)、下段はその逆(P-E<0)。青の太矢印は下向きが降水量、上向きが蒸発量、黒の水平矢印は水蒸気の輸送量を表す。黒の細破線は温暖化前後の変化を比較するための補助線。 矢印の長さは、水の質量保存と温暖化による全体的な変化傾向を概念的に示しており、温暖化による変化は誇張して描かれている。個々の地域・季節では青矢印の大小関係と黒矢印の向きが対応し、地球全体(上段と下段の合計)では上向き・下向き青矢印の差がゼロとなる。温暖化後は、全体的に黒矢印が長くなり(水蒸気輸送量が増加)、個々の地域・季節で上向き・下向き青矢印の差が拡大(雨の降り方が極端化)する。

さらに水蒸気量の増え方は、前述のように、平均的なE(およびそれと等しい平均的なP)の増え方より大きい。梅雨期の日本のような特定の地域・季節で、温暖化によるPの増加が比較的大きいところがあるとすると、そのしわ寄せが他の地域・季節におよぶことになる。つまり、温暖化すると、大雨の頻度や強度は増加し、それと同時に雨の降らない日も増加する。実際には複雑で不確実なところも多いが、コンピュータによる気候のシミュレーションでは概ねこうした傾向が見られる。

(3) 気候レジリエンスとは

温暖化した世界では、雨が増える方にも減る方にも極端になる。気象や気候の変動(variability)が大きくなるとも言える。平成30年7月豪雨については、複数の要因が重なって豪雨が持続する状況が生じたと分析されている。また、これまでの気温の観測データから、長期的に温暖化が進んでいるのは確かである。したがって、豪雨が持続する状況は自然の変動の一端で起きたとしても、その状況で降る雨の量は温暖化で変動が拡大する効果で増大したと考えられるのである。

このような降雨を始めとする気象の極端化に適応するには、気候レジリエンスの向上という考え方がある。レジリエンス(resilience)は一般に弾力性や復元力を意味するが、気候レジリエンスと言う場合は、極端な気象に対処する社会・経済・環境システムの受容力を指す [3] 。そこでは、システムの重要な機能、主体性、構造を維持しつつ、適応、学習、変革のための受容力も維持するような対応が想定されている。一言で言えば、極端な雨・風・気温などに対する強靭性となるが、ただ強靭なだけでなく、長期的な気候の変化に対応してシステム自体も変えていくことが前提にある。その際、適応と並ぶ温暖化対策の柱である緩和(CO2排出削減など)において、長期的に大きなエネルギーシステムの変革が想定されることも念頭に置く必要がある。

おそらく、レジリエンス向上のための個々の施策は、従来の自然災害に対応する施策と大きな違いはないだろう。重要なことは、温暖化対策の文脈における気候レジリエンスの概念を広く共有し、従来の施策を温暖化対策の観点で捉え直すプロセスを踏むことである。その際、個々の持ち場だけで対処するのではなく、適応と緩和に関係するシステム全体で一貫性のある形で対応することが望まれる。温暖化対策はエネルギーの問題と密接に関係し、それを考えることは必然的に温暖化以外の諸問題についても広く考えることになる。

折しも平成30年6月に気候変動適応法が成立し、今後、国の「気候変動の影響への適応計画」(平成27年11月閣議決定)が推進されることになる。平成最後の夏に起きたことを、気候レジリエンスの取り組みを適切に進める契機としたい。

[1] 気象庁, “「平成30年7月豪雨」及び7月中旬以降の記録的な高温の特徴と要因について”, 2018年8月10日

[2] M. Collins et al., “Long-term climate change: projections, commitments and irreversibility,” in Climate Change 2013: The Physical Science Basis, T. F. Stocker, D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S. K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex, and P. M. Midgley, Eds. Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA: Cambridge University Press, 2013, pp. 1029–1136.

[3] IPCC, “Annex II: Glossary,” [Mach, K.J., S. Planton and C. von Stechow (eds.)] in Climate Change 2014: Synthesis Report, Contribution of Working Groups I, II and III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Core Writing Team, R.K. Pachauri and L.A. Meyer (eds.)]. IPCC, Geneva, Switzerland, pp. 117-130, 2014.

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